2008.02.14 (木)健康つくりのススメその他

    腰椎椎間板ヘルニアの有病率・性差・好発年齢について

    EBM(エビデンス・ベースド・メディシン)、つまり科学的根拠に基づいた医療を行うためには診療ガイドラインが必要です。そのガイドラインは質の高い新しい情報に基づいて作られています。
    患者に病気について説明するための資料でよりよい解決策を探る手引きといえます。
    世界中にいろいろな論文があり、多くの医学者が研究を続けており、その中で信頼度の高い論文を選び検討し、科学的根拠が高いものから順にガイドラインが作られています。

    このコーナーでは、鍼灸マッサージを受診する機会の多い疾患の診療ガイドラインをもとに、健康について、病気について考えていきたいと思っています。
    最初は腰椎椎間板ヘルニアについてです。


    腰椎椎間板ヘルニアの有病率・性差・好発年齢について

    じーさん「あたたた…、立ち上がろうとしたら急に腰が痛くなった。よしこさん、助けてくれぇ、立ちあがれんぞい」
    よしこさん「おじいちゃん、そんな急に立ち上がったらダメですよ。ひどそうね。椎間板ヘルニアじゃないの?病院へ行ったら?」
    じーさん「あー痛い。どうもこうもできん。よしこさん救急車じゃ、救急車を呼んでくれ」
    よしこさん「おじいちゃん、腰のどの辺が痛いの?足がしびれて痛くて立てないの?」
    じーさん「足は大丈夫じゃ。こう見えても毎日1時間の散歩はかかさんからの。腰はそんなに下の方じゃなくってもう少し上の方じゃ。あー、腰に加えてわき腹まで痛くなってきた。もしかしてガンが破裂したんじゃろか?」
    よしこさん「おじいちゃん縁起でもない。ガンなんてないってこの前の検診でお医者様にいわれたでしょ。早く来ないかしら、救急車。ヘルニアだったら手術するかしら?心配だわ。」

    さて、おじいちゃんの腰痛はいったいなんでしょうか。よしこさんのいうとおり、椎間板ヘルニアでしょうか。
    腰椎椎間板ヘルニアはよく耳にする病気ですが、人口当たりどのぐらいの人が発病し、経験したことがあるかははっきりわかっていません。アメリカでは人口の約1%、毎年280万人がこの病気になっていると推定する論文があります。
    日本では、男女比は2~3:1で男性に多く、手術を行った椎間板ヘルニア3,956例の報告では、30歳未満15.3%、30~40歳36.1%、40~50歳32.8%、50歳以上15.8%でした。大体40歳をピークに高齢者のヘルニアは減少してきます。

    つまり、このおじいちゃんは年齢から考えると腰椎椎間板ヘルニアの可能性は低いのです。
    今度は症状を見てみましょう。腰や背中の痛みに加えて、わき腹の痛みが強く、足には痛みやしびれは起こっていません。ヘルニアが起こる場所は第4腰椎と第5腰椎の間と、第5腰椎と第1仙椎の間に多く起こり、足の外側や裏側に痛みを起こします。

    最近の診断基準では(腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン策定委員会提唱診断基準)、
    1. 腰・下肢痛を有する(主に片側、ないしは片側優位)
    2. 安静時にも症状を有する
    3. SLRテストは70°以下陽性(ただし高齢者では絶対条件ではない)
    4. MRIなど画像所見で椎間板の突出がみられ、脊柱管狭窄症を合併していない
    5. 症状と画像所見が一致する
    となっており、下肢痛を訴えていないおじいちゃんは、この診断基準からはずれます。医療機関で精査をする必要がありますが、この時点ではおじいちゃんはヘルニアを疑うには条件が揃っておらず、むしろ高齢者に多い脊椎(胸椎ないし腰椎)圧迫骨折を疑った方が妥当と思われます。
    椎体の圧迫骨折についてはまた別の機会にお話しします。

    まとめ
    腰椎椎間板ヘルニアは、男に多く、高齢者に少なく、足に必ず痛みが起こるもの。つまり若い人の病気なんですね。

    最後に
    現在のヘルニアの考え方がはじめて提唱されたのが1911年です。病気が決まれば治療が可能かどうか、また治療方法が決まります。そして多くの医学者がヘルニアの研究を行い新しい治療法が行われ、患者さんの負担を減らしています。
    鍼灸マッサージの研究はこれからです。今までにも多くの研究がなされてきていますが、科学的根拠のある論文はまだ少数です。今後そのような質の高い論文が発表されたら、このコーナーでご紹介したいと思います。

    参考文献:『腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン』日本整形外科学会診療ガイドライン委員会ほか編集、南江堂