2008.02.20 (水)国民の皆様メディアニュース

    鍼灸News Letter No.1(テキスト版)掲載しました

    鍼灸News Letter No.1(テキスト版)をお届けします。
    ※掲載にあたり、鍼灸医療推進研究会のご承認をいただいております。ご活用下さい。

    *****

    鍼灸News Letter No.1


    News Flash /鍼灸界の動き
     
    1. 鍼灸専門学校入学者に医療資格者が増加
    2. パーキンソン病治療への関心高まる
    3. 期待される動物への鍼灸治療

    Topics/鍼灸最前線
    1. ニーズに応える鍼灸院
      「女性専用」、「バイリンガル対応」、「メタボリック対策」、「きれいになりたい」等々
      ニーズに細やかに対応するサロン的鍼灸院が身近に増えてきています
       
    2. 現代の病と鍼灸:アレルギー性疾患
      明治鍼灸大学附属病院で長年「アトピー治療」に携わってきた江川先生にお話を伺いました

    Event Report /鍼灸関連イベントからの話題
    1. 全日本鍼灸マッサージ師会大会 in なにわ
      婦人科疾患の鍼灸
       
    2. 日本鍼灸師会全国大会
      Dr.コトーのモデルになった瀬戸上医師、離島医療の現実を語る
       
    3. 日本伝統鍼灸学会学術大会
      吉川正子氏の接触鍼実技が評判
      脳性マヒ児が野球部に入るまで改善した症例発表

    鍼灸医療推進研究会概要

    ◎メディアお問合せ窓口◎
    (株)ジャパンピーアールビジョン 担当:千手
    中央区銀座5-10-6 御幸ビル
    Tel(03)3574-6591
    Fax(03)3574-0056 senju@jprv.co.jp
    (株)医道の日本社 担当:由井
    新宿区新宿1-7-1 新宿171ビル6階 Tel(03)3226-3777
    Fax(03)3226-3780 yui@idojapan.co.jp



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    News Flash
    1. 鍼灸専門学校入学者に医療資格者が増加
    (社)東洋療法学校協会が加盟43校に実施した「平成15年度~平成19年度入学者の構成に関するアンケート調査」によると、この2-3年で、現役の医師を含む医療資格取得者が増えていることが見受けられます(グラフ参考)。最も多いのは柔道整復師。次いで看護師、准看護師、理学療法士、保健師等。また、歯科医や歯科衛生士、歯科技工士も見られます。
    この背景には、鍼灸が、西洋医学をはじめ美容やスポーツ等の様々な分野と融合し始めたことがうかがえます。


    2. パーキンソン病治療への関心高まる
    明治鍼灸大学附属鍼灸センターでは、1989年に京都駅前に新たに「明治鍼灸大学附属京都駅前鍼灸センター」をオープンし、明治鍼灸大学と附属病院の連携により、東洋医学の特徴と長所を生かした鍼灸治療を行っています。
    同センターでは2004年10月、一般外来に加えて専門外来を開設しました。高血圧症、男性更年期、スポーツ障害、アトピー性皮膚炎に加えて、パーキンソン病の鍼灸治療専門外来を鍼灸学博士・江川雅人先生が担当しています。パーキンソン病専門外来に関しては、今年に入ってから来院者が増加の一途にあり、一日に20人近い患者さんが来院されることもあります。
    江川先生によれば「薬物療法とは違い、鍼灸は副作用もなく、また痛みの緩和やパーキンソン病特有のうつ症状の緩和という点で非常に有効です。慢性の疾患ですので、治療を継続することが必要ですが、遠方からも多くの患者さんが来院されます」。

    ◎明治鍼灸大学附属京都駅前鍼灸センター
    Tel (075)361-8998
    http://www.meiji-u.ac.jp/ekimae/index.html


    3. 期待される動物への鍼灸治療
    去る10月、“岩手大学発ベンチャーの「いわて動物鍼灸センター」が動物専用の鍼灸鍼を開発”というニュースが、各マスコミで報じられていました。15年前から動物への鍼灸治療を行っている「かまくらげんき動物病院」の石野孝院長(写真)によれば、「動物専用鍼の開発ということは、それだけ動物への鍼灸治療への関心と期待が高まっていることの証拠」だそうです。

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    石野院長が獣医師として鍼灸を始めたきっかけは不思議な因縁。「鍼灸師の父親を持ち、プレセボ効果(心理的な影響)を受けやすい人間への鍼灸治療を見るにつけ、私自身は鍼灸を非科学的として受け入れられなかったのです。それで、動物なら治療に対してのプレセボ効果がないだろうと、獣医を志しました。大学を出て農業高校の教員をしていたとき、動けなくなったブタに鍼をしてみたら、歩けるようになったのをみて、動物に鍼灸治療を始めました」。
    「1992年の開業当初から治療で鍼灸をしていますが、長い間“怪しい獣医”という見方をされていました。ところが、最近では飼い主さんも関心を持ち、獣医さんたちも鍼灸を学んでいます。ペットの寿命も伸びている一方で人間同様に生活習慣病も増えていますので、従来の西洋医学的な治療だけでは、難しくなっているのでしょう」。

    「すべての獣医師がスタンダードな鍼灸治療ができるようなマニュアル作り」、「動物への鍼灸の科学性の追求」、そして「欧米から学ぶ状態から離脱し独自の鍼灸治療を日本から海外に普及させていく」ことが石野院長の目標だそうです。

    ◎かまくらげんき動物病院
    神奈川県鎌倉市手広6-1-1
    Tel (0467)32-9113
    http://www.genkivet.com/index.html


    Topics
    1. ニーズに応える鍼灸院
    欧米では、近年、鍼治療に関する関心と理解が高まり、実際に多くの人が鍼治療を活用しています。この世論を裏付けるかのように、マスメディアでも鍼治療に関する話題が非常に多く取り上げられています。特に英国では“Facial Acupuncture”、“Cosmetic Acpuncture”(「美容鍼治療」)が大きな関心を呼んでいますが、この「美容鍼治療」は、日本でも最近、徐々に注目を集め、鍼灸治療が受けられる高級ホテルのスパなども登場しています。
    実際、美容鍼治療を行っている治療院を中心に、これまで鍼灸には馴染みにくかった人たちや女性たちが安心して通える鍼灸院が各地に登場しています。「女性専用」、「バイリンガル対応」、「メタボリック対策」、「きれいになりたい」等々、様々なニーズに対応している鍼灸院の一部を紹介します。


    ホリスティックケアをめざす、バイリンガル対応の鍼灸サロン
    アキュラ鍼灸院
    ◎◎◎東京都渋谷区/オーナー:徐 大兼さん

    痛くなく、熱くなく、そして心地よい清潔な空間

    「今までのようなステレオタイプの鍼灸院ではないものを作りたかった」という徐大兼氏。明るくて落ち着ける、そしてきれいでさわやかな空間。それがアキュラ鍼灸院の第一印象。来院するのは、ほとんど女性。また海外から日本に駐在している外国人やそのご家族の方も多いそうです。
    「女性専門というわけではないのですが、女性が多いですね。自分の身体に対する意識は、女性の方が高いのかもしれません」。
    婦人科系疾患、生理不順、子宮内膜症、子宮筋腫、月経痛など女性特有のトラブルを抱えてアキュラに来院する人の多くは「冷え」が強いそうです。
    「交通機関の発達で歩かない、冷蔵庫やコンビニの普及で冷たい飲み物を摂る、不摂生な食事など“冷え”を引き起こすものが蔓延しているのが、現代の生活です。“冷え”は万病のもと」。
    そして「身体の不調はもちろん、あから顔やニキビ、くすみ、シミなどの肌トラブルも、原因は一人ひとり違い、ライフスタイルの中にある」と徐氏。“冷え”ない身体にするためには、鍼灸で整えることも大切だがライフスタイルも変えて自分でケアすることが重要ということです。

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    「原因は何かを、その人の日常生活や食事など、ライフスタイルから掘り下げていって、その人に合う治療を心掛けています。肌の健康だって、そもそも身体の健康です。自分で本当の健康を勝ち取ること、そのお手伝いをするのが私たちの役目だと思っています。ですから、日常の運動や食事、精神的なアドバイスなどいろいろお話しするようにしています」。
    今いちばん女性が注意しなければいけないことは?―答えは「水毒」。
    「ペットボトルをパソコンの脇に置いて、絶えず何か飲んでいませんか?最近の人は水の飲み過ぎです。植木に水をやり過ぎると根腐れするのと同じで、水の飲み過ぎは毒。身体を冷やしてしまいます。とにかく冷やさない生活をすることが、健康、そしてスキンケアの基本ですね」。


    アキュラ鍼灸院の特徴
    <専門領域>
    不妊症、美容、ペインコントロール、不定愁訴の改善
    ◎ 鍼は痛くなく、お灸は熱くなく、がモットー。
    ◎ 問診票にチェックしてもらうだけでなく、直接話をして、その人のライフスタイルを把握する。
    ◎ 身体を診て、自己申告と違うのでは、と感じると、もう一度確認する。
    ◎ EDFTという一種のフィンガーテストを行い、鍼がきちんと効果をあげているかどうか、チェックしながら施術する。
    ◎ 施術の時間は特に設定していない。その人の身体の状態によって、その回の目標を決めて、その目標に到達したら終了。

    オーナープロフィール
    徐 大兼(じょう たいけん)先生
    熊本県生まれ。代々鍼灸を営み、4 代目。祖父母、両親、弟、叔父叔母、従兄弟等
    親族全員が鍼灸師。
    インターナショナルスクール、カリフォルニアのビジネススクール、日本鍼灸理療専門学校、日本柔道整復専門学校を卒業。
    資生堂アカデミー・ビューティ&ファッション・エステラピー科修了。
    日本不妊カウンセリング学会認定の不妊カウンセラー。
    平成18年度(財)東洋療法研修試験財団生涯研修終了。


    東京都渋谷区渋谷1-4-7 Park Axis渋谷702(表参道または渋谷駅から徒歩7分)
    Tel (03)5469-0810 http://www.acuraclinic.com
    営業時間:10:00~20:00(最終受付19:00) 日曜定休
    治療費の目安:鍼灸総合治療費\7000、初診料\3000


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    西洋のエステと東洋の鍼灸を融合させた美容鍼灸の草分け的、女性専用サロン
    東洋医学美容/美容鍼灸&エステティック「JUNON」
    ◎◎◎横浜市西区/オーナー:森谷恵子さん

    「健康な身体こそ、きれいの素」がJUNONの基本姿勢

    化粧品メーカーの教育課に勤務、その後フリーランスになりメイクアップアーティストとして、またエステティシャンとして活躍していた森谷さんに転機が訪れたのは、フランス研修のとき。
    「フランスで教わった先生が、経絡やツボに詳しくて。美容に東洋医学を取り入れていること自体に驚きました。それまで私はメイクとかエステとか、外側からケアする美容しか経験がなくて、“日本人なのに何も知らない、勉強しなくては”と一念発起しました」。
    「順風満帆だった仕事から離れ、37歳にして鍼灸マッサージの専門学校に入学したのです。そのとき学園長に、美容に鍼灸を取り入れたいと言ったら、とても驚かれたことを覚えています。当時そんな生徒はいませんでしたから」。
    鍼灸師、マッサージ師の資格を取得するとすぐ、“JUNON”をオープン(’91年)。開業当時は、美容と鍼灸という組み合わせは理解されず、苦難の連続だったそうです。
    「最近は、美容鍼灸を掲げた鍼灸院も、少しずつですが増えてきています。それでも、鍼灸が“きれい”をつくるということが一般的になったかというとまだまだ。肌にハリやツヤがないとか目の下にクマができたとか、肌の調子が悪いときは、身体が不調なときなのです。健康な身体じゃないと、きれいにはなれないのだということを、みなさんに自覚して欲しいと思います」。


    JUNONの美容鍼灸の特徴

    ◎ 痛くない鍼 <髪の毛くらいの細さのディスポーザブル鍼(使い捨て鍼)>を使用。
    ◎ 「健康な身体でなくては、きれいは生まれない」というポリシーから、全身に鍼をする。 (鍼の本数は、体の表・裏など合わせて約80本と、贅沢に使用)
    ◎ 悩みや身体の状態に合わせて、さらに必要なツボに、鍼や温灸を施術。
    ◎ 清潔な空間とプライバシーを保つ個室。
    ◎ 美容鍼灸以外に、フェイシャルエステ、まつげパーマ、脱毛、メイクアップ指導など美に関するメニューが豊富。

    オーナープロフィール
    森谷 恵子(もりやけいこ)先生
    化粧品メーカーの美容教育課勤務後、30代後半までフリーのメイクアップアーティスト
    エステティシャンとして活躍。フランスやアメリカにて美容留学を経験後、東洋医学に 興味を抱き東京衛生学園専門学校入学、鍼灸マッサージを学ぶ。臨床歴16 年。
    日本エステティック協会正会員。シデスコインターナショナルエステティシャン。
    日本エステティック協会認定トータルエステティックアドバイザー。
    日本鍼灸師会、神奈川県鍼灸師会会員。美容師、鍼灸師、あん摩マッサージ指圧師。

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    横浜市西区北幸2-13-5 ぐうはうすA903 (横浜駅西口から徒歩7 分)
    Tel (045)320-5533
    http://www.junon-moriya.com
    営業時間:10:00~20:00(最終受付19:00)、木曜定休
    治療費の目安:鍼灸治療60 分\8400、初診料\2500(再診時に請求) 他


    東洋医学のトータルサロン
    ファイン鍼灸院
    ◎◎◎東京都杉並区/オーナー:丸山智子さん

    鍼灸と漢方を融合させた“漢方セラピー”

    「腰痛や肩こり、冷え症、むくみの人が最近増えている」という丸山智子さん。
    「代謝が滞っているのか、身体が冷えている方が多いですね。まずマッサージを行って、身体をほぐして温まりやすくなったところで、鍼の施術をします。肩や腰が緊張している人も、マッサージをするとリラックスするので、本来の症状(コリの場所や痛いところ)が把握しやすくなります」。
    冷え症やむくみはほったらかしにしておくと、下半身太りの原因になってしまうそうです。
    「上半身は太っていないけど、下半身だけ重い感じの方が多いですよ。鍼で代謝をあげて、やせやすい身体にしてあげると、キュッと締まってきます。そのうえ肌がきれいになるという“おみやげ”もついてきます」
    疲労は貯めると老化を引き起こす。「早め早めに解決してあげること」が結果的にアンチエイジングになると丸山さんは言います。ファイン鍼灸院には、鍼灸だけでなく、漢方やアロマテラピー、漢方エキスを使ったエステティックなど、女性にうれしいケアメニューがいっぱい。
    「婦人科に行くのはハードルが高いけれど、ここならいろいろ相談できてと、いつも来てくださる30代、40代の女性も多いですね。ご自分の身体のチェックのためにもお役に立てればと思っています」。

    ファイン鍼灸院の特徴
    ◎ 問診後、マッサージをして身体をほぐしてから鍼治療をする。
    ◎ マタニティケア(乳腺炎や逆子に効果的)や美顔鍼が人気。
    ◎ 婦人科系疾患の相談、漢方相談。
    ◎ メタボリック対策(部分やせなど)、たるみ、二重あご、肌トラブル。
    ◎ エステティック、アロマテラピー。

    東京都杉並区阿佐ヶ谷南1-35-21 2F
    (阿佐ヶ谷駅、南阿佐ヶ谷駅より共に約5 分)
    Tel (03)5378-4107
    http://www.fine-therapy.com/
    営業時間:10:00~20:00、日曜定休
    治療費の目安:鍼灸治療(40-60分) \3150~\5250、美顔鍼\5250
    初診料\3150 他


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    医学的知識に基づいたカリキュラムで、からだをトータル的にメンテナンス
    b-studio in GINZA (ビースタジオ イン ギンザ)
    ◎◎◎東京都中央区/オーナー:大前優子さん

    西洋医学と統合したカリキュラムにより身体をトータルにメンテナンス

    医師の多い環境に育った大前さんの前職は代議士の秘書。仕事を通じて鍼灸と出会い、いつしか「西洋医学と鍼灸を融合させた環境を実現できないか」という思いを抱くようになり、2004年にb-studio in GINZA(以下、ビースタジオ)をオープン。銀座駅からほど近いビルの中にあり、落ち着いて清潔感もあり、癒される雰囲気の空間です。
    ビースタジオでは、「なぜ、痛みが起きたのか」、「なぜ辛いのか」、「なぜ体調が優れないのか」という原因や身体機能の状態を正しく知るところから始めます。そして、主に神経障害の治療法として使われてきたPNF(※)トレーニングと、鍼灸マッサージ師による物理的治療、また、栄養士による栄養指導、医師によるカウンセリング等を組み合わせたカリキュラムを作り、身体をトータルにメンテナンスしていく仕組みです。来院者は、スポーツによる負荷や怪我などで痛みを持つ中学生から疼痛に悩む80代の方までと幅広く、もちろん、アンチエイジングやダイエット、健康維持を目的に通うサラリーマンやOL の方も。
    大前さんのめざす所は「日本では医療と鍼灸が離れてしまっているけれど、特にヨーロッパでは医師が積極的に鍼灸を医療に取り入れています。人びとの身体のケアに西洋医学と東洋医学とがもっと共に取り組めるような仕組みを作っていく」ことだそうです。

    (※)PNF(Proprioceptive Neuromuscular Facilitation)
    1940 年代、アメリカにおいて神経生理学者や理学療法士により確立されたリハビリ手技。
    本来は主に神経障害の治療法として使われてきたが現在では脳卒中、パーキンソン病、腰痛、スポーツ障害といった整形外科的疾患など幅広く用いられている


    b-studio in GINZAの特徴

    ◎ 痛みや不調の原因や身体機能の状態を正しく知り、医学的知識に
    基づいたカリキュラムでからだを総合的にメンテナンス。
    ◎ 国際PNF協会の教育プログラムを受けた理学療法士が指導するPNFトレーニング。
    ◎ 医師によるドクターカウンセリング。
    ◎ 様々な症状やダイエットのための栄養指導。

    東京都中央区銀座4-10-6 銀料ビル2F
    (東銀座駅からすぐ、銀座駅から約5 分)
    Tel (03)3541-0040
    http://www.e-bodycare.net
    営業時間:10:00~20:00(予約受付9:00~19:00)、日曜祭日休
    治療費の目安:鍼灸60 分 \7350、鍼灸+マッサージ60 分¥10500 他


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    Topics
    2. 現代の病と鍼灸:アレルギー性疾患
    世界中で都市化が進み、ストレス、アレルギー、慢性疲労など、先進国特有の身体のトラブルや生活習慣病が蔓延しています。薬物投与や外科治療で対処してきた西洋医学だけでは治せない、病気ではないけれど「なんとなく不調」、あるいは原因が分からない症状に悩まされている人々が、子どもから高齢者まで、幅広い年齢層で増加しています。
    一方では、社会の高齢化に伴い、いつまでも元気で若々しくありたい、との願いも万人共通のものとなり、「病気にならないための医療=未病」への関心が広まってきています。
    こうしたなか、古くからの医療が見直され始めていますが、なかでも東洋医学の中核を成す鍼灸は世界中で注目され、鍼灸のメカニズムを解明する研究も各国で進められています。
    今回は、現代の疾患のなかで、前述のパーキンソン病に取り組む以前から、アレルギー、特にアトピー性皮膚について、長年、治療と研究を進めている明治鍼灸大学の江川雅人先生に鍼灸の可能性についてお話を伺いました。

    Q 先生がアトピー性皮膚炎を研究テーマにしたきっかけは?

    A. 大学を卒業した直後は内科学教室に所属する鍼灸師として、内科系疾患が研究テーマでした。その中でも、私自身が気管支喘息を持っていて、患者さんの気持ちが理解しやすいということから、最初はアトピー性皮膚炎ではなく、気管支喘息の鍼灸治療を研究テーマにしていたのです。ところが80 年代後半から、気管支喘息に代わって、アトピー性皮膚炎の患者さんが非常に多く来院されるようになりました。同じアレルギー性疾患ということで、喘息からアトピー性皮膚炎に研究の対象が移ってきたわけです。

    Q 素人から考えると、鍼灸とアトピー性皮膚炎とが結びつかないのですが

    A 明治鍼灸大学附属鍼灸センターに来院されたアトピー患者さんのほとんどは、すでにステロイド外用剤などの標準的な治療を受けています。それでも症状のままならない患者さんが鍼灸治療に期待して来院されます。したがって、アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療の研究は、患者さんからの強い希望が発端です。薬物療法でも効果がなかった患者さんをどのように治療していくか、手探りで臨床を繰り返していくうちに、研究の形が出来上がったというわけです。

    Q 当時は、アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療法はなかったということですね

    A. アトピー性皮膚炎に関しては症例報告も多くは認められませんでした。ただ、東洋医学には「弁証論治」と呼ばれる特有の診断―治療過程があって、疾患に関係なく、食欲がなくて身体がむくむということであれば脾が弱いとか、足腰が悪くて髪の毛が抜けやすいということであれば腎の病症だとか、イライラして目がチカチカしていたら肝の病だというように、全身の状態から東洋医学的な判断と治療を行います。
    当初の鍼灸治療はこうして始めていきました(ここでいう肝、心、脾、肺、腎は東洋医学的な臓の名称で、解剖学的に呼ばれるそれとは若干の違いがあります)。

    表1: アトピー性皮膚炎の中医学的分類

    弁証 皮膚の症状 治則
    風熱証:症状の変化が激しい。乾燥が強くカサカサしている 清熱涼血
    風湿証:症状の変化が激しい。ジクジクしている 去風化湿
    風寒証:症状の変化が激しい。皮膚は乾燥傾向にあり、寒冷刺激が誘引や悪化因子となる 去風散寒
    気血両虚証:症状の変化は激しくない。皮膚は白く、乾燥傾向。症状は軽度である 気血双補


    表2:アトピー性皮膚炎の患者にみられる全身性の随伴症状

    症状 症例数
    肩こり 18
    全身または四肢の冷え 13
    過食 12
    イライラ 9
    便秘 9
    不眠 9
    ほてり感、熱感 7
    全身倦怠感 6
    下痢 4
    腰痛 3
    生理不順 3
    食欲不振 2
    残尿感 1
    四肢倦怠感 1
    眼精疲労 1


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    Q 鍼灸治療の方法は?
    A. 前頁の表1に示す通り、私共の治療では、皮膚の症状から患者さんを4つのタイプ(弁証)に分けて鍼灸治療を行っています。各々の弁証に対する治療の原則(治則)に従って治療点(経穴)を決めていくのです。また、ほとんどの患者さんは表2 に示すような全身の随伴症状があります。これらの随伴症状は、皮膚炎の悪化と同時に増悪するか、皮膚炎悪化の予兆として増悪してきます。こうした症状に対してもきめ細かく治療を加味することが重要です。従って、治療内容は人それぞれに異なります。

    Q アトピー性皮膚炎に対して、鍼灸医学と西洋医学では治療に対する考え方が違うのでしょうか
    A. 私は、西洋医学ではアトピー性皮膚炎を皮膚の病気だとみているように感じます。西洋医学ではアトピー性皮膚炎の病態に関する皮膚における研究は、近年、極めて細かいレベルまで行われています。
    細胞から放出されるサイトカインの発現や免疫細胞のかかわり合いなどです。こうした皮膚の病態を改善するために、西洋医学では「塗る薬(外用薬)」を重視しています。アトピー性皮膚炎の治療において最も信頼性と安全性の高い外用薬はステロイド外用剤であり、それに続く外用薬としてタクロリムス外用剤があります。これらは抗炎症作用、免疫調整作用を有する外用薬として高い治療効果をあげています。
    二次元的な広がりをもつ皮膚という器官に「塗る」という局所的な治療を行うのが、西洋医学の視点だと思います。
    一方、鍼灸医学では、皮膚をより立体的(三次元的)にとらえる視点を重視しています。東洋医学では、皮膚は肺と深い関係をもつと考えられています。さらに肺は「肝、心、脾、肺、腎」の中で互いに関連しあいながら機能しています。皮膚に異常があるとき、皮膚をつかさどる肺にどのような影響が及んでいるのかを考える必要があります。そう考えるとき、皮膚は身体全体の機能と関連していることが意識されるわけです。皮膚そのものよりも「皮膚を全身の機能との関連性の中でとらえていく」、これが鍼灸医学の視点だと思います。

    Q 身体全体から診ていくのが、鍼灸医学の考え方だということですか
    A. かゆみを伴う湿疹がアトピー性皮膚炎の主な症状であることは間違いありません。でも診察すると、症状は皮膚だけにとどまらないのです。特に成人のアトピー性皮膚炎の患者さんのほとんどに、肩こり、足の冷え、易疲労、精神的なイライラ、便秘、生理不順など、皮膚症状に随伴する様々な全身症状がみられます。でも、患者さんのほとんどは附属鍼灸センターに来院されるまで、外用剤や保湿剤で皮膚の治療やケアは行っても、皮膚以外の症状のケアは受けてはいません。
    鍼灸医学では、こうした随伴する症状を含めた全身的な治療を行うところに特徴があります。易疲労、精神的なイライラなどは、実際に西洋医学では対処しにくい症状でもあり、鍼灸治療はこうした症状をコントロールするのに優れた治療法だと思います。皮膚の組織は日々新しく生まれ変わりますからね。随伴する症状を緩和することが、皮膚の正常な機能回復に結びつくものと考えています。身体のひずみを治すことが自然治癒力を高めて、アトピー性皮膚炎への治癒へと結びつくのだろうと考えています。

    Q でも西洋医学も否定されているわけではない?
    A. 前述した通り、ステロイドやタクロリムスの外用剤は抗炎症作用、免疫調整作用を持ち、専門医により処方を受けることで高い治療効果を得ることができます。鍼灸治療には即効性はありません。あくまでも全身の機能調整を通して皮膚の機能回復を求めるものです。したがって、強い炎症(かゆみ)や急激な症状の悪化時には、まず薬物療法が有効でしょう。そして同時に鍼灸治療を行って身体のひずみを治すことが、アトピー性皮膚炎では重要なのです。すなわち、西洋医学と鍼灸医学、それぞれの得意分野を生かした「統合医療」が有効であると思います。


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    Q アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療の臨床成果は?
    A ステロイド療法などでも症状が持続していた45症例に対する鍼灸治療の結果から、平均24回の鍼灸治療により、約8割の患者さんに皮疹の改善やかゆみの軽減が認められました。また、治療を20回、30回、1年と継続することで、かゆみの軽減する症例の割合が高くなりました。治療を継続し、成果の上がった症例では、血中のIgE抗体値や血中好酸球数も減少しており、いわゆるアレルギー状態が改善されるという臨床結果もみられました。アトピー性皮膚炎の治療において、鍼灸治療は大きな可能性のある治療法だと思っています。


    鍼灸学博士
    江川 雅人(えがわ まさと)先生
    ’87 年明治鍼灸大学卒業
    同大学附属病院研修鍼灸師、教員養成課程を経て、東洋医学臨床教室助手。
    ’03 年老年鍼灸医学教室(現 加齢鍼灸学教室)の講師に就任。
    ’04 年「アトピー性皮膚炎に対する鍼灸治療の効果に関する臨床定研究」で学位取得。
    現在は「パーキンソン病」「高齢者のうつ」を研究テーマに臨床と学生の指導を担当。
    明治鍼灸大学 http://www.meiji
    u.ac.jp/index.php
    明治鍼灸大学附属鍼灸センター http://www.meiji-u.ac.jp/cli_orie/index.html


    Event Report
    鍼灸師は日々の治療や研究に役立てるため、定期的に開催される勉強会(セミナーや学術大会)に参加しています。学術大会では講演、セミナー、研究発表、実技などが行われ、著名な講演者が呼ばれることもあります。

    1. 全日本鍼灸マッサージ師会大会から……7月8~9日、大阪にて開催
    鍼灸講義「婦人科系疾患の鍼灸」

    全日本鍼灸マッサージ師会大会では、森ノ宮医療学園専門学校講師、于 思(ユース)氏による講義が行われました。氏は、
    「鍼灸は東洋医学(中医学)の中の一つの領域であり、生薬、導引、食養などと共に古くから伝わってきた伝統医学である。長い歴史の中で、総合して病気を対応し、健康を維持してきた。従って、その基礎になる諸理論、学説などが共通であろう」とし、特に婦人科疾患に関しては「『金匱要略』(キンキヨウリャク)や『諸病源候論』をはじめとする歴代の医書の中に多く記載されている。その中に『血の道症』という病症は婦人科疾患と密接な関係があると見られ、それに対する鍼灸治療にも論じられているところは少なくない」と説明しました。
    婦人科系疾患が増加傾向にあるのは「現代社会になって、生活環境及び食習慣が大きく変わってきたためとみられている」として、数例の月経異常の症例治療を踏まえた上、婦人科疾患の鍼灸治療に対しての見方、治療及びその結果を紹介しました。


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    2. 日本鍼灸師会全国大会から……10月6~7 日、大阪にて開催

    Dr.コトーのモデルになった瀬戸上医師、離島医療の現実を語る

    特別講演「離島医療から見たプライマリケアとは―ドラマより面白い離島医療」で登壇したのは瀬戸上健二郎氏(薩摩川内市立下甑手打診療所所長、写真)でした。フジテレビで放送されたドラマ「Dr.コトー診療所」のコトー先生のモデルになった医師です。瀬戸上医師は昭和50年ごろの針麻酔がきっかけで鍼を始めるようになりました。一時は1日60人を治療、鍼治療を望む患者が押しかけ、夕方6時になっても診療を終えることができないほどだったそうです。昭和58年には中国の医療事情視察の機会があり、本場での鍼治療を勉強したというエピソードも紹介されました。すべての疾患を鍼で治そうとまで考えていた時期もあったとか。しかし、鍼治療をしながら、自分が打つ鍼の持続性のなさにその限界を感じたといいます。
    離島では、人間の他にカモメやウサギも診なければならないことや、 検査から診断・治療まで、また小児科、産婦人科、精神科といった自分の専門外の患者さんを前に自分の未熟さを痛感することなど、プライマリケアの一言では収まりきれない離島医療の現実を瀬戸上 医師は語りました。


    3. 日本伝統鍼灸学会学術大会から……10月27~28日、札幌にて開催

    吉川正子氏の接触鍼実技が評判に

    鍼灸の学術大会では教育セミナー、講演、シンポジウムなどを聴くことができますが、ベテラン鍼灸師の実技を観ることもできます。今回の日本伝統鍼灸学会学術大会では9つの研究団体が技を披露しました。会場にいる参加者から患者役を募集し、実際に治療を行います。参加者は問診、触診のコツ、鍼の刺し方、お灸の据え方を、一流の実技を通して学びます。
    学術大会は日本だけでなく、海外にもあります。10月20日~22日には北京で世界鍼灸学会連合会(WFAS)が開かれ、28の国と地域が参加しました。そこで注目を集めたのが日本の鍼灸師の「接触鍼」という技です。患者の皮膚に鍼が触れるか触れないかのわずかな刺激で変化をもたらすというものです。日本伝統鍼灸学会学術大会でWFAS について報告したのは鍼灸ジャーナリストの松田博公氏(元共同通信編集委員)。WFAS の会場で、北海道の吉川正子氏(中医鍼灸研究会、写真)が行う接触鍼に大勢の中医師たちが興味を示して 「この腕に実際にやってくれ」といって吉川氏を取り囲んだといいます。
    日本伝統鍼灸学会学術大会でも吉川氏の実技は人気でした。

    脳性マヒ児が野球部に入るまで改善した症例発表

    一般研究発表でとくに耳目を集めたのは、京都で治療院を営む三浦由夫氏の「脳性(四肢)マヒ児が超浅刺で野球部に入れるまでに改善した症例」でした。
    「超浅刺」とは日本伝統鍼灸学会の会長で開業43年の超ベテラン鍼灸師 首藤傳明氏が開発した刺鍼法です。深さ0.5 ミリしか刺しません。
    自力座位ができなかった8歳の脳性マヒの少年が、往復3時間かけて三浦氏の治療院に週2回通い、鍼治療とリハビリを継続して受けたところ、1年後に握力計を握れるようになりました。その経過を三浦氏は報告しました。少年は小学校で念願の野球部に入ったそうです。会場のスクリーンには少年の症状が徐々に改善していく様子、ボールを投げたりバットを振る姿が映し出されました。鍼灸治療の可能性の広さを感じる発表でした。


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    鍼灸News Letter No.1
    2007 年12 月/発行:鍼灸医療推進研究会

    鍼灸医療推進研究会 概要

    鍼灸医療推進研究会は、鍼灸医療に携わる組織が協力して設立した任意団体で、鍼灸医療への理解を広めるためのコミュニケーション活動を推進しています。

    <鍼灸医療推進研究会 加盟組織>

    (社)日本鍼灸師会
    〒170-0005 東京都豊島区南大塚 3-44-14
    Tel(03)3985-6771 Fax(03)3985-6622
    ホームページアドレス http://www.harikyu.or.jp/


    (社)全日本鍼灸マッサージ師会
    〒160-0004 東京都新宿区四谷三丁目12-17
    Tel(03)3359-6049 Fax(03)3359-2023
    ホームページアドレス http://www.zensin.or.jp/


    (社)全日本鍼灸学会
    〒170-0005 東京都豊島区南大塚 3-44-14(日本鍼灸会館内)
    Tel(03)3985-6188 Fax(03)3985-6135
    ホームページアドレス http://jsam.jp/


    (社)東洋療法学校協会
    〒105-0013 東京都港区浜松町1-12-9 第1 長谷川ビル4F
    Tel(03)3432-0258 Fax(03)3432-0263
    ホームページアドレス
    http://www.toyoryoho.or.jp/index.php


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    以上